「面倒くさい」は改善のサイン。外資系テック企業のアナログな現実と「Invent and Simplify」

仕事のこと

1. Invent(創造)と Simplify(簡素化)

私が身を置く外資系企業には、リーダーシップ・プリンシプル(行動規範)というものが存在する。その中で、個人的に最も自分にバチッとハマり、体現するのが得意だと感じているのが「Invent and Simplify(創造と簡素化)」だ。

文字通り、Inventは「創造(発明)」、Simplifyは「簡素化」を意味する。 仕事における本来の意味合いは、「物事を複雑にせず、新しいアイデアでシンプルにし、誰でも回せる仕組みに落とし込む」ことである。もちろん、社内のシゴデキなバケモノたちに比べれば私のレベルなどたかが知れているが、それでもこの思考法は私の性分に合っていた。

入社して間もない頃、私のトレーナーだった人がこう言った。「面倒くさいと感じたら、そこがカイゼン(改善)するポイントだ」 この言葉は、10年以上が経過した今でも私の中に深く埋め込まれている。極力動きたくない、楽をしたいという私のささやかな願いを、大手を振って仕事に活かせる免罪符を得た瞬間だった。

2. テック企業のアナログな現実と、マクロという名の「隙間産業」

弊社は世間からは「大手テック企業」に分類されることが多い。しかし、その内情は意外とアナログだ。システム化が追いついていない領域も多く、日々の業務の中で「Excelのデータを無限に手作業でコピペして資料を作る」といったイケてない作業が平然と存在している。

忙しい業務の中で、ちまちまとコピペを繰り返すのは純粋に面倒くさい。 面倒くさいなら、カイゼンしよう。そう思い立ち、私はVBAをいじって手作業をマクロ化した。 ボタン一つで勝手にマクロが動き、Excelを操作してデータの成形からメール送信までを全自動でやってくれる仕組みを作ったのだ。

私はただ、画面の中で勝手に動くカーソルを眺め、「お、ちゃんと動いてるな」と確認するだけ。仕事をしているフリをしながら、ぼーっとする。最高の時間だった。 技術的には非常にシンプルで初歩的なものだったが、現場にはマクロを組める人間が少数派だったため、このツールは思いのほか重宝された。ちょっとした隙間産業である。私はしばらくの間、この自作ツールのおかげで「仕事をしているフリ」を涼しい顔で続けることができた。

3. 「Invent」の暴走と、ツール乱立

時代は進み、今ではマクロの代わりにAIを使って同じようなことをしている。 定期的にシステムをチェックさせ、ブラウザ上のツールで作業を完結させ、結果報告だけを自動でSlackに通知させる。AIはマクロよりも触れる人間が多いため希少価値こそ薄れたが、それでも社内ではそこそこ使い込んで自分の業務を自動化している方だと思う。

個人レベルであれば、こうしてひたすら開発(Invent)をして自分の作業を楽にしていればハッピーだ。しかし、これが会社レベルの規模になると厄介な問題が起きる。交通整理が必要になるのだ。

会社としても「Invent(創造)」は推奨されているため、色々なチームの色々な人間が、業務を便利にしようと次々に新しいツールや仕組みを開発する。より便利になっていくこと自体は素晴らしい。だが、各々が勝手にInventし続けた結果、似たようなツールや、結局誰も使わないダッシュボードが乱立し始める。 結果として、業務プロセスは逆にゴチャつき、複雑化していくのだ。

挙句の果てに開発者の多くは「そのツールを使ってもらった実績」が欲しいがゆえに、使えもしないツールを使うことを目的にされることもある。ツールは手段であって目的ではない。しかし、「このツールを1日◯回以上使うように」みたいな司令が出たりするのだ。しかも使った実績をExcelに記録するように指示されることあり、誰かの実績作りの加担させられるとか本当に最悪である。

4. 何のための「Simplify」なのか

ここで重要になるのが、後半の「Simplify(簡素化)」である。 ツールが乱立したのなら、統合しなければならない。プロセスが複雑になったのなら、不要なダブルチェックや承認フローは思い切って廃止しなければならない。新しく生み出す(Invent)こと以上に、削ぎ落としてシンプルにする(Simplify)ことの方が、実ははるかに難しく、そして重要なのだ。

思い返せば、前職のケータイショップ時代にも似たような提案をしたことがあった。 無駄な手書きの管理表や、電卓片手に作成する経理日報Excelだったり、いろいろな”アナログ”を、自動化・シンプル化する簡易的なツールを作って提案したのだが、「今までこのやり方でやってきたから」という、誰の得にもならない理由で採用を見送られた。でもこれは珍しくないと思う。言うたら今の会社でも無いことは無い。手段が目的化し、無駄な作業を「やること」自体に価値を見出してしまう環境では、Simplifyは絶対に実現しない。

「面倒くさい」という感情は、業務効率化における最大のセンサーだ。 ただツールを作るだけでなく、いかに無駄を捨ててシンプルにするか。これからも私の「楽する時間」を死守するために、大真面目に業務の簡素化を目論んでいく所存である。

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